1806人が本棚に入れています
本棚に追加
もっとも、恐らく彼女に狂化の状態異常を付加したのは、陸斗のウッカリ発言にあるのだろうけれど。
「ちょ、ちょっと待った!まずは平和的に話し合いを……」
龍人とも互角に渡り合えるほどの力を持つレティシアを相手に、まだ龍人として覚醒したばかりの未熟な自分とラクーだけでは力の差は歴然である。
何とか戦わずに済ませたい陸斗達へ、その真意を知るレティシアは妖しい笑みを浮かべて見せた。
「聞く耳持たんな。まずは貴様らを完膚無きまでに叩きのめし、それからどうするか悠々と考えるとするか……!」
遺跡でも見せた強力な魔法でも使おうというのか、手の平を陸斗達へと向けるレティシア。
もはや状況は絶望的である。どうなるというわけではないが、陸斗は襲い来る攻撃に備えて身構えた。
「クククッ……後悔するがいい。我を相手に刃向かった、愚かな自分をなァッ!!」
「も、もうダメか……っ!」
気合いと共に、レティシアは手の平を向けた腕を勢い良く突き出した。あと数秒としない間に、禍々しい黒炎の熱が自分達を焼き尽くすだろう。
固く身体を強張らせ、瞳を閉じる陸斗。せっかく逃げおおせたと思ったのに、神様の気まぐれというやつは随分と残酷らしい。
「…………?」
ところで、何時になったら攻撃を仕掛けてくるのか。カチカチになった身体も次第に痛みを訴え始めており、この状態はかなりつらいものがあった。
「リクトさん、リクトさんってば」
「な、何だよラクー。俺は今忙しい―――って、あら?」
チョイチョイと服の袖を引かれ、陸斗はあっさり瞳を開いて緊張感の欠片もないラクーを見下ろした。
そして、気付いたのだ。魔法を放つ体勢のまま、微動だにしないレティシアの姿に。額に汗を滲ませたその表情は、どこか焦っているようにも見えた。
「ば、バカな……だ、だが、貴様如きに魔力を浪費する必要もあるまい!」
何が何やらわからないが、どうやら魔法攻撃は中止したらしい。今度は黒マントを翻し、陸斗へ向かって拳を振り上げながら飛びかかってきた。
「喰らえッ!そして砕け散るがいいッ!!」
「く……ッ!」
今度こそ、もうダメか。陸斗に逃げる暇も与えず、放たれたレティシアの拳が陸斗の頬を打ち抜いた。
が、しかし。
「いてっ」
威勢に反し、ペチッと軽い音が周囲に虚しく響く。
最初のコメントを投稿しよう!