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予想を遥かに下回る威力の攻撃に、陸斗は日焼け後程度にヒリヒリする頬をさすって呆然。むしろ、レティシアの方がダメージの多そうな悲痛な表情を浮かべていた。
「や、やはり、魔力は使えぬか……ッ!」
攻撃した拳以前に、あれほど全身に満ち溢れていたはずの魔力が一切感じられない。いや、存在しているのは確かなのだ。だが、行使するのに必要な回路を断ち切られたような―――
「…………ぅ」
その時、レティシアの背筋に悪寒が走る。恐る恐る静かに顔を上げてみれば、腕を組んで仁王立ちした陸斗が、何やら妖しい笑みを浮かべながら真正面で彼女を見下ろしていた。
「ほほぅ~……魔力が使えないと。それはそれは、大変な事になりましたなぁ……」
「いや、それは……その……っ」
ニヤニヤと、これ以上幸せなことはないといった笑みを含んだ陸斗の言葉にレティシアはタジタジ。あれほど陸斗達を追い詰めた気迫は既にどこへやら、完全に視線があちこち泳ぎまくっていた。
思わず後退るも、数歩と歩かぬ内に背中を木にぶつけてしまう。もはや逃げ道すら失ったレティシアに、両手を妖しくワキワキと蠢かせながら上機嫌な陸斗の軽い足取りが近付いてきた。
「おやおやおや、逃げることはないんダヨ?なーんにも恐いことはないからねぇ。うひょひょひょひょ……おっと、涎が」
「ひっ……!」
闇夜に恐怖を振り撒くはずの吸血鬼が、今は下衆な陸斗の笑みに戦慄。小さく短い悲鳴を上げるレティシアに、もはや元の面影は一片も見当たらない。
そんな彼女の命運を表しているのか、鼻先を掠めて落ちていく葉が一枚。それが、開戦の合図となった。
「往生せいやぁあああ―――――ッ!!」
「ぅにゃあぁあああ――――――ッ!?」
飛びかかる陸斗と、押し倒されて倒れ逝くレティシア。その一方、惨劇の傍らで花を弄るラクー。
そして―――
「さっさと解けッ!この我にこのような仕打ち、タダで済むと思うなよッ!」
ラクーが見付けてきた蔓によって、木に縛り付けられたレティシア。もはやこの程度の陳腐な拘束ですら、今の彼女には抜け出すことも出来ないようだ。
「ったく、意外と手こずっちまったな……」
顔や腕に引っ掻き傷を作った陸斗は、ようやく捕らえたレティシアを眺めてしみじみと呟いた。力は無いとはいえ、その鋭い爪は健在であった。後で半円形にまで切ってやらねば。
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