1806人が本棚に入れています
本棚に追加
雀の涙ほどにまで縮小された最後の良心に言い聞かせるかのように呟きながら、陸斗はさらにレティシアへと歩み寄っていく。
「り、リクトさん?その……あ、あまりひどいことは……」
「大丈夫大丈夫、どうせやることは一緒だって。さて……どこを責め倒してやろうか……」
尋常ではない陸斗の雰囲気に危険を感じて立ち塞がるラクーを押しのけ、遂にレティシアの前に立つ。
絶望的な状況でありながらも懸命に睨み返す彼女に、陸斗はその下衆な笑みを浮かべた顔を近付けた。
「お、おのれっ……このような下劣な真似に走るなど、仮にもティアマットの血を引く者として恥ずかしくないのか!?」
「それはそれ、これはこれだ。そもそも、悪人のお前に下劣とか言われたくないってーの。さてさて、まずは胸の辺りから始めてみようかね。こうやってくすぐっていたところ、おっと手が滑った!これは失礼~っと」
「まさか、それが目的でした……?」
尋問にかこつけたアクシデントタッチを虚空へ向かってシュミレーションする陸斗に対して呆れきった声を洩らすラクーだったが、それも既に今の彼には聞こえてはいないらしい。
「んじゃ、時間もあまり無いことだし……イッツ・ア・ショータ―――ィンムッ!」
「く………っ!」
陸斗の魔の手が、これ見よがしに開いたレティシアの胸元に迫る。もはや、どちらが悪人なのかわかったものではない。
ラクーも、なんとか陸斗の尊厳を守るべく凶行を止めねばとしたその時、背後から近付いてきた一つの気配。それに気付いて振り返ったラクーの瞳が一際大きく見開かれた。
「ねぇ、そこで何をやってるのかしら?」
「あぁん?見りゃわかるでしょうよ。これから尋問にかこつけた合法的なセクハラを―――って」
めちゃめちゃ嫌というほど聞き覚えのある背後からの声に、ピタリと陸斗の動きが停止する。
そして、恐る恐る顔を声のした方向へと向けた瞬間、どこまでも深い絶望が彼の身を包み込んだ。
その視線の先には、なんと現在出会いたくない人物第一位に君臨するクレアの姿。後ろ手に手を組み、気味が悪いほどニコニコとした笑顔で陸斗の為さんとしていた所行を眺めていたのだった。
同時に、陸斗のはちきれんばかりに膨張していた煩悩袋は瞬く間に萎んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!