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「い、いやぁ……その、さっきのは冗談!本当にちょっとしたお茶目というか悪ふざけというか……とにかく冗談だから!大体こんな非常時に、俺がそんなふしだらな真似をするわけないじゃないか!いやだなぁもう~」
遭難よりも遥かに怖い新たな命の危険を前に、とにかく危険域から離脱しなければと思い付く限りの弁解を身振り手振りを加え並べ連ねてみながら、テヘヘッと笑ってみせる陸斗。
しかし、クレアの反応は限りなく薄い。ニコニコと屈託のない笑みを浮かべたまま、ただ何を言っているのかわからないといった具合に小首を傾げてみせただけであった。
そんな彼女を前に、相変わらずテヘヘやってる陸斗の全身から滝のようにドッとばかり噴き出す冷や汗。
これは、まったく信用されていないと受け取るべきだろう。なんとか目撃されてしまった卑劣な現状に、自身の正当性を持たせる必要があった。
「そ、それにほら!コイツを見てくれ!ナリはこんなだけど、あのレティシアなんだ!だから俺は、少しでもゼムナス達の企んでいる情報を聞き出してやろうとしたわけであって―――」
「ほぅ、それは初耳だ。てっきり、貴様の淫獣のような目と言動を聞く限り、私の身体を弄ぶことが目的だと思っていたがな」
「ボクも、そう感じましたけど……」
「ぅ、うおぉおおぉぉオバカ!余計なこと言うんじゃねぇってのッ!クレアが本気にしたらどうす―――」
「ねぇ、リクト……」
その瞬間、陸斗は石像になった。確実に、今のマズすぎる会話は聞こえていた。むしろ、聞こえなかった方がおかしいくらいである。
もはや、自分の命はもって十秒といったところか。それでは、皆さん御一緒にカウントダウンをお願い致します。
「う、うん?ど、どうした……?」
十……九……八……
「それって……全部、私のためにしてくれたってこと?」
七……六……五……
「ま、まぁ、そんなところかな!だってほら、俺はお前のガーディアンなわけだし、当然だろ?」
四……三……二……一……
「嬉しいっ!やっぱり貴方の事、大好きよリクト!」
「ゼロ……ぉ?」
なにやら、予想とは遥かにかけ離れた展開になっているような気がする。
もしかしたら、夢でも見てるんじゃないかという考えが脳裏を過ぎったが、それもすぐに消し飛んだ。
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