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ちょっと視線を動かせば、超至近距離にクレアの横顔。さらにはダイレクトに女の子特有の柔らかな身体の感触が押し付けられており、ほのかに香る甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
とどのつまり、陸斗はクレアからの熱烈な抱擁を受けているのだった。
基本的に殴られるか罵倒されたことしか記憶に無いクレアとの接触経験からは万が一にも考えられない状況に、陸斗の身体は極度の緊張と恥ずかしさでカチカチに固まっていた。
「く、クレアさん?ど、どうしたんだよ、なんかお前……その、おかしいぞ」
「あら、こんな状況だもの。再会は素直に喜ぶべきだと思うけど?ラクーも、無事で良かったわ」
「は、はぁ……」
なんとなく違和感が拭い去れないのは、どうやらラクーも陸斗と同じだったようだ。
しかし、そんな小首を傾げる二人をさて置き、陸斗から離れたクレアは縛られたレティシアへと歩み寄っていった。
「何があったか知らないけど、これで貴方もオシマイね。お父さん達のこと、全部喋ってもらうから」
「……ほぅ。ククッ、なるほどなぁ……」
詰め寄るクレアに対し、レティシアは緊張感も無くどこ吹く風。しばらくジッとクレアの顔を見つめていたかと思えば、妖しい薄ら笑いを浮かべて視線を逸らしてしまった。
「……ふんっ、まぁいいわ。ところで二人共……」
レティシアと対峙したまま、しばらくの沈黙の後、クレアは急に陸斗達へと振り返った。
「ん、どうした?もしかして、もうアーク達とも合流したのか?」
「ううん。そうじゃないんだけど……実は、この近くに街があるの。ひとまず、そこで一休みしない?もしかしたら、アーク達もそこに居るかもしれないじゃない?」
クレアから告げられた情報は、まさに天からの恵みのように有益なものであった。
ロクに気を休めることも出来ていない今の状況で、一息つけるのであればすぐにでも向かいたい。向かいたいところなのだが―――
「街、か……うーん……」
こんな奇妙な雰囲気満載なところに街があるなど、にわかには信じ難い話である。そんな想いも相成って、なかなか決心がつかない陸斗だったが、迷う彼の手をクレアが握った。
「何悩んでるのよ。ほら、早く行くわよ」
「わ、わかった、わかったって。ラクーも、それでいいよな?」
「ボクは、リクトさんがそれでいいのなら構いませんけど……」
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