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結局クレアの押しに負けて街に向かうことを決めた陸斗だったが、同意を求められたラクーも彼と同じことを考えていたようだ。
あまり乗り気ではないものの、陸斗が行くならばと渋々首を縦に頷かせた。
「私は、同意出来んな」
そこへ、街へ行くことを決めた三人とは真っ向から対立する意見が上がる。揃って顔を向けてみれば、相変わらず縛られて地面に転がされているレティシアが陸斗達をジッと静かな瞳で見つめているのだった。
「…と、いうと……?」
「そもそも、おかしいとは思わんのか?このような奇妙な気配に満ちた森の中に、街などあってたまるものか。少なくとも、思考のまともな者達が暮らしているとは思えんな」
陸斗とラクーが密かに考えていたことを、一言一句違わずにレティシアが代弁してくれた。
やはり、そう考えるのが普通なのだろうか。この際だし本音を言ってしまおうかと陸斗とラクーが目配せをしたその時、彼らを押しのけるようにクレアは前に進み出て―――
「ふんっ!」
「ぅぐ……っ!!」
一切の躊躇もなく、無防備だったレティシアの腹部を蹴り上げたのだった。
「ば、バカッ!何やってんだ!いくら何でもやりすぎだろ!!」
あまりにも度の過ぎたクレアの行為に、陸斗は驚きのあまり一瞬遅れて彼女を背後から羽交い締めにする。
以前の状態ならばまだしも、鈍痛に身体をくの字に曲げて悶絶するレティシアに対し、クレアは悪びれた様子もなくどこ吹く風。それみたことかと言わんばかりにレティシアを見下ろしながら嘲笑を浮かべていた。
「あら、そんなことないわよ。だって、この吸血鬼は私達を惑わそうとしたんだから。こうやって黙らせておいた方が、都合が良いと思うけど?」
「お前な……いや、もういい」
弱体化してしまったとはいえ、レティシアは間違いなく自分達の敵である。クレアにとって、まだその辺りの整理がついていないのかもしれない。
まともに取り合うつもりが皆無なクレアから離れ、陸斗はレティシアへと歩み寄ると傍らに片膝をついた。
「お、おい……大丈夫か?」
先ほどの一撃がよほど手痛いものだったようで、苦悶の表情を浮かべるレティシアの額には大粒の油汗が浮かんでいる。
敵とはいえ、苦しんでいる様子をジッと眺めていられるような性分ではない。
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