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せめて気休め程度でも楽になればと、陸斗はレティシアの背中をそっと撫でる。
「…ふっ……ずいぶんなお人好しだな、貴様も。奴も、大概だったがな……」
「無理に喋らなくていいって。ラクー、ちょっと頼む」
「あ、は、はい!」
背中を撫でる役をラクーと交代し、立ち上がった陸斗は相変わらず面白くなさそうな顔をしているクレアへと向き直った。
「その街に、レティシアも連れて行くぞ。いろいろと聞きたいこともあるからな」
「ええ、もちろんよ。さぁ、行きましょうか。アナタに会って欲しい人もいるし……」
「は……?それって、どういうことなんだ?」
「ふふっ……それは、着いてからのお楽しみね。さぁ、こっちよ」
意味深な台詞を残し、先に立って歩き出してしまうクレア。陸斗はそんな彼女に何とも言えない違和感を覚えながらも、レティシアとラクーへ顔を向けた。
「そういうわけだから、一緒に来てもらうぞ。今更じゃ説得力無いかもだけど……悪いようにはしないから」
「…ふん、私の忠告は無視か。後悔しても知らんぞ」
「あいにく、まだお前を全面的に信用は出来ないんでな。ラクー、背負ってくから手を貸してくれ」
「大丈夫ですか……?連れて行くなら、僕が背負っていきますけど……」
「大丈夫大丈夫。コイツ結構重いから、ラクーにはまだムゥゥッ!?」
一瞬だけ本来の吸血鬼の気迫を見せたレティシアからヒールの踵で脛を蹴られ、陸斗涙目。
口は災いの元だと痛いくらい理解しているはずなのだが、なかなか生来の性格は矯正してはくれないらしい。三つ子の魂百までとは、よく言ったものである。
「り、リクトさん……?」
「だ、大丈夫、大丈夫だから……多分、骨までイッてないと思うし……」
本当に、そうであってもらいたい。心配してくれるラクーを促してレティシアを背負った陸斗は、やれやれといった感じに立ち上がった。
「…ふぅ、思ったより軽かったわ。うん、本当です。あと言っとくけどな、絶対に噛むなよ?」
吸血鬼に首筋を晒すというこの緊張感。背負う前はそれほど気にはならなかったのだが、この恐怖は背中に押し当てられる柔らかい感触から与えられる喜びを僅かに凌ぐ。
自分から背負っておいて戦々恐々とする陸斗に、レティシアはクスクスと妖しい笑みを浮かべて笑ってみせた。
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