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「ククッ……さぁて、保証は出来んな。私の小腹が空く前に、せいぜい街とやらに辿り着くことだ」
「ひぃぃ……っ」
一度噛まれたことがあるだけに、あの激痛は予防接種の比ではない。とりあえずレティシアが凶行に及ばぬ間に、さっさと目的地に向かうとしよう。
「何やってるのよ!早く来ないと置いて行っちゃうわよ!」
「リクトさん、行きましょう。クレアさんも待ちかねてますし……」
「ああ、わかった。さて、行くとするか……」
こちらへ向かって手を振るクレアへと合流し、陸斗達は疲れた足を奮い立たせて歩き出した。
クレアの先導のおかげか、アテもなく歩き回っていた時よりもかなり精神的に余裕がある。不安というものがここまで体力を奪っていくものだと、改めて実感させられた。
妙に先ほどよりも道が歩きやすく感じてしまうのも、きっとそのせいなのだろう。
「それにしても、クレアさんが無事で良かったですね。ボク達とはぐれた後、どうされたんですか?」
「私も、森に倒れてたらしいんだけど……その街のある人に助けてもらってね。ふふっ……アナタ、きっと驚くわよ?」
「誰だよ、ある人って?勿体ぶるなって」
陸斗を横目に妖しい笑みを浮かべるクレア。何となく楽しげというか、今の状況をわかっているのだろうか。
まだ、アーク達三人との合流が果たせていない今、まだまだ状況が改善されたとは言い難い。クレアの言う街で少しでも休息したら、今度はそこを拠点に捜しに行かなくては。
「はい、着いたわよ」
「はぁっ!?着いたって……ここが?」
まだ歩き始めて十分も経たぬというのに、クレアが立ち止まったのは深い霧の真っ只中。あまりに霧が濃すぎて周囲の森すら見えず、辛うじて仲間の姿がぼんやりと陽炎のように浮かび上がる程度である。
「大丈夫、心配しないで。もうすぐ見えてくるから」
「おいおい、バカ言うんじゃないよ。そんな自然現象が都合良く―――」
陸斗が言い掛けたその瞬間、その目の前で不可思議な出来事が起こった。
風など微塵も吹いていないというのに、急に立ち込めていた濃霧が薄れていく。視界が徐々に鮮明なものへとなっていく中、人々の気配や喧騒の声が聞こえてきた。
「ど、どうなっちゃってんの……?」
霧が晴れ、唖然とする陸斗が立ち尽くすのは、なんとも賑やかな街の真っ只中であった。
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