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もっと甘えたいという気持ちが皆無と言ったら嘘になるが、もう自分は子供ではない。立派な両親の名に恥じぬ、一人前の冒険者なのだ。
「そうだ、クレア。私達は今、この近くにある街で世話になっているんだが、お前も一緒に来なさい。ずいぶん、疲れているみたいだしな」
「街?街が近くにあるの?」
「ええ、とても良い人達ばかりで……私達、もうそこに住んじゃおうって思ってたところなの。貴方もきっと気に入ると思うわ」
こんな深い森の奥に街があるとは驚きだが、そこに行けば陸斗達も見付かるかもしれない。何より、今はだいぶ開いてしまった空白の時間を両親と共に少しでも埋めていきたかった。
「うん、行きましょう。実は私、はぐれた仲間を捜してたところなの。そこに行けば見付かりそうだしね」
「ほう!遂にお前にも仲間が出来たか!今夜は祝杯を上げなければならんな!」
「お父さんったら……大袈裟ねぇ。それに私、もうガーディアンだって居るんだからね。見付けたら紹介するわ。っと、それよりも……」
両親との再会に夢中になって、茉莉のことをすっかり忘れていた。踵を返し、クレアは相変わらず力尽きている茉莉へと駆け寄ろうとしたが、それよりも早くその腕を父親が掴んだ。
「クレア、その女には近付かないほうがいい」
「とても、危険な力を感じるわ。それに、その角は……」
「ち、違うの!マツリは確かに人間じゃないけど……でも、私の仲間なのよ!」
懸命に説得を試みるクレアだったが、自身の腕を握る父親の力が緩められることはない。あの住んでいた敵意剥き出しの村の中でも、温厚な態度しか見せなかったあの両親が、これまでに見せたことのないほど厳しい表情で茉莉を睨み付けていた。
「クレア、今は私達の言うとおりにするの。もう、私達に悲しい想いをさせないで……?」
「でも……マツリは……私の……」
衝突した時もあったが、今となっては掛け替えのない仲間。しかし、クレアは父親の手を振り払ってでも茉莉の元へと向かうことが出来なかった。
ようやく感じられた、両親の温かさ。その温もりを、もう手放したくはなかったのだ。
「さぁ、早く行きましょう。クレアのために、久しぶりに料理の腕を振るっちゃうから」
「母さんの料理は天下一品だからなぁ。食べながら、旅先での話をタップリ聞かせてやるからな!」
「う、うん……」
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