バーテンダー、タモツ

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「それでどうなったんですか?」 低くて、耳触りのいい声が耳元で囁かれた。 右頬がヤケに冷たい。 静かなバックミュージックが鳴り響いている。 どうやらわたしはバーのカウンターで寝ているようだ。 薄く眼を開くと、まるで、オニキスのような瞳をこちらに向けたバーテンダ―の姿があった。 髪をキッチリオールバックに決めて、真っ白なシャツに、黒のベスト。 ジバンシーのロゴが入った細身のネクタイに、趣味のいいパールをあしらったネクタイピンがスポットライトを受けてキラリと光っていた。 ホストかモデル並みの容姿を持ったバーテンダーに吸い寄せられるようにこのスツールに座った。 久しぶりに出て来た都内で、偶然、フラリと入ったレトロ風のこのバ―に、わたしの理想とする男が、ツンと澄ました表情で軽やかにシェーカーを振っていた。
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