第一章 パンドラの箱

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玄関先で、祖母は待っていた。相変わらず、表情が読めない人だ。いつも笑っているような顔をしている為、喜んでいるのかすら分からない。 「元気そうで、よかった」 祖母は俺を抱きしめた。その腕の温もりは、あの日と同じで、自然と心が落ち着く。 ゼンと出会った日。痛みを抱えたまま、帰宅した俺を祖母は黙って抱きしめてくれた。いつの間にか痛みは消え、そのまま祖母の腕の中で眠ってしまった。 月日が経って、容姿が変わっても、変わらない事がある。それを体感し、寂しくなっていた心に温かな火が灯った。 「さっ、晴。夕飯にしようか」 「……おう」 中へ入ると、既にテーブルの上にはご馳走が並んでいた。豪華とは言いがたいが、お袋の味が堪能出来るメニューばかり。 その中でも、祖母の煮物は格別に美味い。同じ様に母さんが作っても、何故だか祖母の味には勝てない。年期が違うからなのか? 「やっぱ、ばぁちゃんの煮物最高!」 「そう言ってくれると、嬉しいよ」 「美味いのは分かったから、もっとゆっくり食べれんのか」 祖母と祖父と食べる久しぶりのご飯。いつもよりも、食が進む。たくさん食べ、風呂に入り、俺は早めに寝た。
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