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「部長、お待たせしました。」
「ありがとう。」
部長にコーヒーを出して、自分のカップの中身を飲み干す。
部長が来て少し引き締まった空気の中で、私は気合いを入れ直した。
それぞれに集中していて静かな事務所には、キーボードを叩く音と書類をめくる音だけが聞こえている。
「室井さん。ここなんだけど…」
「室井さん。これ、頼んでいい?」
「室井さん。ちょっといい?」
時々、池口さんから呼ばれて池口さんのデスクに向かい、書類を覗き込みながら答える私。
そんな私たちに部長が視線を動かしていたなんて全く気付きもしなかった。
「室井くん。」
それまで黙っていた部長に呼ばれた。
「はい。」
「私が頼んでた件、出来てるかな?出来れば早めに欲しいんだが。」
…あ、あの件ね。
「はい。後はチェックだけなのですぐにやります。池口さん、先に部長の件やらせてもらってもいいですか?」
「もちろん。僕のは後でいいから。」
「すみません。」
私は部長に頼まれた案件の仕上げに取り掛かる。
「池口くん、悪いね。」
部長も離れた席から声をかけた。
その口元がわずかに笑っていたなんて…
…想像も出来なかった。
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