仕事女

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歩き始めたものの、室井の足取りは遅く、カラダが揺れている。 そして、ついには止まってしまった。 遊歩道の柵によりかかり、彼女は俺の存在を忘れたかのようにまた桜の景色に入りこんだ。 話しかけようとも思ったが、俺も今年最初で最後の花見を堪能することにした。 毎年一人で来ているが、この景色は素晴らしい。 その上、今年は室井が一緒だ。 お互い、景色に酔っていて近付き過ぎていたことに気付かなかったのか、小さく肘がぶつかった。 彼女と顔を合わせた瞬間、 どうしようもない感情に襲われた。 室井は酒など飲んではいないのに、まるで酔っているような潤んだ瞳で、言葉もなくゆっくり微笑んだ。 その表情は 頼りない街灯に淡く照されて、なんとも言えない色気を帯びていた。 …参ったな。 言葉にするつもりなどなかったのに、続きが口から零(コボ)れてしまった。 「…そんな顔…俺以外に見せるなよ…。」 おまけに無意識の内に室井の頭に触れてしまっていた。
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