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重い。
さっきまで聞こえていた虫の鳴き声、鳥達のさえずりが聞こえない。
昼間だと言うのに夕方のようなうす暗さを感じる。
もしかしたら明るさは変わっていないのかもしれない。
だが、重い空気がそう感じさせる。
異様で異質で奇異だ。
俺が動く音以外の音がない。
筋肉が収縮してなのか、何か抵抗があるからなのかわからないが、水中の中にいるように動きづらい。
汗が一つ頬を伝う。
何が起きているのか全くわからないが、全身の器官という器官が危険信号を出している。
逃げよう。
この場から逃げよう。
そう思い階段の方を振り返るとあるものが視界に入った。
人影。
家の階段を降りて振り向くと玄関がある。
その玄関ドアのすりガラスに闇のように暗い人影が写っていた。
「くっ……」
とっさに目を逸らした。
見てはいけないような気がしたのだ。
だが、そんな善悪よりも怖かったのだ。
思わず目をつむってしまうほどにその影が怖かったのだ。
「……はぁ……はぁ……」
視線を床にそらした後は、恐怖で体が硬直して動けなくなってしまった。
胸の鼓動が嫌に大きく聞こえる。
痛くなるほど心臓が脈動している。
「……はぁ……はぁ……」
極度の緊張から身体が荒い息遣いで酸素を求める。
その息遣いのバカでかい音を殺そうと呼吸を抑える。
「……ぐっ……はぁはぁ……」
十分な酸素を得られないためか視界がチカチカしてきた。
恒常性維持機能以外働かない俺の身体は人体生存を維持するのがやっとだ。
フラフラし、立つことすら危うい。
こんな状態では人影が何らかのアクションをしてきても対処できないだろう。
何者なのかはわからない。
人間なのかもわからない。
何をしにこの家に来たのかもわからない。
何もわからない俺には去ってもらうことを願う他なかった。
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