十九章 夕空

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ふと、シャルトの背後から声がした。 「こんなに楽しみにしているんだ。ゼアには約束を果たしてもらわないとだな」 まったく油断していて、いきなり聞こえた声にびっくりして後ろを振り返る。 「クレシアさん!」 シャルトの背後に立っていたのはクレシアだった。 「何で気配消してるんですか!」 「驚かせようと思った」 油断していたとはいえ、背後に人が忍び寄れば気付くはずだ。シャルトが気付かなかったのは、クレシアが意図的に気配を消していたからだった。 「案外子供っぽい一面もあるんですね、クレシアさん…」 意外な一面を発見してアテルアは苦笑した。 自分に対してイメージが変わりそうだったので、クレシアはそれを否定する。 「いつもはやらんぞ。ただ今は機嫌がいいからやってみたくなっただけだ」 「何かいいことあったんですか?」 「ケーキ奢ってもらった」 「……」 イメージは更に子供っぽくなり、アテルアはもう何も言わなかった。 アテルアに代わってシャルトが質問する。 「誰に奢ってもらったんですか?」 「ゼアだ」 クレシアはシャルトの質問に答えるついでに、今日の行動を3人に話した。 「皆と別れた後、俺は騎士団に行った。戦闘訓練をしようと思ってな」 「ずっと訓練を?」 「ああ、朝から少し前まで。 昼を過ぎた頃、ゼアが騎士団にやってきて、それからは共に訓練をした。夕方も近くなった頃に騎士団を出て、ゼアにケーキを奢ってもらったんだ」 「ゼアは今どこに?」 「少し買い物に行くと言っていたな」 クレシアは自分の手を見る。 今日の訓練で、自分はどれだけ強くなっただろうか。 この手で救える人は、少しでも増えただろうか。
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