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僕には羽が無い。それは、高校生なのに携帯を持ってないとか、腕時計を身に付けてないとか、そういうレベルの欠損じゃない。
鼻とか耳が、丸々無いのと一緒だ。人間が創り上げた世界は人間が創り上げたせいで、羽が生えた人間仕様にチューンされていて、だから羽が生えてない僕には非常に暮らしにくい世界だった。
そう、それは、どんな側面でもだ。ミクロでもマクロでも、家でも学校でも。
とぼとぼと歩く帰り道は、もう毎度の事になってしまっているけれども、やはり変わらず惨めだった。
背中の右側が痛い。クラスの奴に突き飛ばされた時、ドアの角にでもぶつけたのだろう。後で湿布を貼らなくてはいけない。
重い足を引き摺り、ようやく自宅にたどり着いた。当たり前だが、全てのシステムは羽が生えた人間を対象としているので、学区もバカみたいに広いのだ。それに反比例するように、交通機関の運行頻度は少ない。
自転車に乗るという手もあるのだが、ああいうのは好きな人が乗るものだ。簡単に言えば、値段が高い。需要がないのだ。
鍵を使って、家の扉を開ける。時限爆弾の蓋が取れたような音がした。
中には母が居た。無言だった。まるで、目に見えないエーテルが勝手に開けたのだと、沈黙の内に言い張っているようだった。
まあ、いつもの事だ。
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