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夕食はハンバーグだった。また、妹が食べたいと駄々をこねたのだろう。最近、肩書きが中学生にバージョンアップしたはずだったが、心はまだ小学生なのか。
父が妹の部活について尋ねた。妹が答え、母がそれに相槌を打つ。理想的な家族だった。だが、そこに僕は居ない。
羽が生えてない僕は、両親にとって人間でなく、故に彼らは僕を家族とも認識していない。僕を家族と認定すれば、それはつまり『ウチの家族には欠陥があります』と宣言したようなものなのだ。
妹だけが、唯一まともに取り合ってくれていたが、そんなあいつも、家族の不文律が醸し出す腐臭に気付き始めたのか、段々と態度がぎこちなくなってきた。
別にそれを責めるつもりはない。それはつまり、あいつがそれだけ『適応』という大人的スキルの経験値を貯めてきたということなので、兄として妹の成長は喜ぶべきだろう。
僕は箸を置き、部屋に戻った。ごちそうさま、を言わなくなってどれくらい経っただろう。
部屋に居ても、する事は無い。勉強も空しい。どうせ予習しても、授業で当てられる事は無い。かといって、何か打ち込める趣味も無かった。まず、スポーツは駄目だ。往々にして、男のスポーツは集団での着替えを伴う。そうすれば、僕に羽が生えてない事は一発でわかる。独りでするほど、運動が好きなわけでもない。
インドアも空しい。蒐集にも魅力を感じなかった。むしろ怖かったのだ。羽が生えてないという自分の劣等感が、屈折し変容することで、異常な性癖が発現するのではないか、と。だから、何かに心を奪われるのが怖かった。
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