ハネナシ

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◇◇◇ 我慢だ。我慢我慢。 いつも心の中で唱えてる呪文。同級生の足が僕の腹にめり込んだ。何か酸っぱいものが込み上げてきたが、外界に現れる前に飲み下す。 僕に手を出すメンバーは固定されている。たった四人。致命的な四人。他の同級生は周りで眺めているだけだ。だけど、消極的な傍観は積極的な共犯者となりうる。 重機のような力で襟首を掴まれ、体を引き上げられた。拳がすい臓を打った。不快感が血管を通ってるかのように、体内を駆け巡って心臓に集まった。 だから、昔の呪文は違った。『死ね死ね、みんな死ね』クラスの奴らが全員雷に打たれて死ぬ、とか、僕が休んだ日に食中毒で全員死ぬ、とか、そういう妄想をしていた。 そんな事をしても無意味だとわかっている。だから最近はもっぱら我慢だ。苦痛に対する耐性は、特殊部隊隊員並だと自負している。 それに、今日はハネナシの庭の集会だ。これを耐え抜けば、僕は自由になれる。ほんの一瞬の、吹けば壊れるような自由だけど、それでも自由は自由だ。 勝手な期待が僕を立たせ、そして黙らせている。期待が感覚を遮断させている。一歩引いた位置から、僕は僕を眺めていた。 あ、今、膝が入ったよ。 痛そうだなあ。 ◇◇◇
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