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それは、先月のこと。
動物園での職場体験者募集!!…の掲示板の張り紙に率先して手を挙げた翡翠は、和輝の心配を他所に意気揚々と出掛けていったのだが…。
「その動物園で、獰猛過ぎて手におえないと飼育員達が嘆いていたホワイトダイガーを瞬時に手懐けたって…」
「ああ!!『ミルッヒ』のこと?」
「ミルッヒ!?」
「うん♪真っ白いトラさんだからね、ミルッヒってお名前付けたの。すっごーくかわいいんだよぅ」
「……へぇ」
大型の猛獣を、まるで自分の家で飼っているペットのように表現する翡翠に、もはや和輝は呆れるしかない。
「みんなさぁ、『危ないっ!!』って叫んだと思ったら、すっごく遠巻き見ててさぁ…。あんなにかわいいのに…何でかな?」
「さぁ…(そら怖いって普通はっ!!)」
「そしたら『採用決まり』って♪また、ミルッヒに会いに行くんだぁ♪かずも行く?」
「………考えとく。だけどさぁ…獰猛なトラの名前が『ミルク』って…」
「エーゴじゃなくて、ドイツ語で『ミルク』って意味だよ?」
「そんなの、わかってるってばっ!!」
…ハッと、つい大きな声でツッコミを入れてしまった自分に気づき……赤面した和輝はここから立ち去りたい気持ちでいっぱいになった。
ところが…。
「あ♪俺も聞いたよーっ!!そーくんちと和んちの、ごたいめーんな話っ!!」
ねぇねぇ、その話を詳しく聞かせてよーっ!!…なんて、無責任に興味を示す幼馴染みに身体を揺さぶられながら…。
無理矢理記憶の隅っこへ追いやっていたはずの、蒼い悪夢を思い出して……和輝はそのままグッタリとうなだれた。
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