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私はその後も横断歩道で姿の見えない女の子と会話をした。
女の子は私にいろんなことを話したり尋ねたりしたが、自分の身の上話をすることはなぜか拒んだ。
私はそんな女の子を不思議に思った。女の子は私に何かを隠している。そんな疑惑が私をとらえて離さなかった。
ある晩、いつものように親しげに話してくる女の子に姿を現してと再び頼んでみた。
女の子の顔や姿がどうしても気になって仕方なかった。躊躇っているので余計気になるのだ。
「出てきてくれなかったらレイカちゃんの友だちやめるよ」
そこまで言ってみた。
女の子は何かを考え込んでいるようだった。そしてしばしの沈黙の後、
「じゃあ、マユちゃんがわたしのところにきて?」
と言った。
すると、魔法にかけられたように頭がぼうっとしてきて目が霞んだ。空中に浮いているようなフワフワした感覚になる。
朦朧とした意識の中、遠くに女の子が立っているのが見えた。
でもその身体のほとんどが白い靄で隠されていて、足や肩の一部しか見ることができない。
近づくと靄が少し晴れた。
私は女の子にどんどん近づいていく。
女の子は徐々に輪郭を作りはじめる。
「もうちょっとよ……」
心底嬉しそうな女の子の声。
顔にかかった靄が取り払われかけたその時。
「レイカ!」
鋭い女の声が頭の中に響いた。
と同時に意識を取り戻した私のすぐ目の前を、巨大なトラックが轟音とともに走り去っていった。
気づけば私は横断歩道のど真ん中に佇んでいた。信号は赤く点灯している。
唐突に恐怖がこみ上げてきて家に駆け戻り、母の懐に飛び込んで泣いた。
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