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居どころを失ったナナは私を抱きながらつまらなさそうにシートの上を歩いていた。
ふとナナは立ち止まった。
視線の先にはシートに置かれた誰かの人形。
それも、私とまったく同じタイプの。
ナナはゆっくりと歩み寄り、私とそれを見比べた。
いつもナナに遊ばれて少しぼろくなった私。
新品のように艶があるシート上の人形。
ナナはキョロキョロと周りを確認する。
私はナナが私を置き去りにして、私ではない方の人形を大事そうに抱えて走っていくのを見ても、何も感じなかった。
ナナが私のところに戻ってくると何の疑いもなく思っていたわ。
しかし、二度とナナが戻ってくることはなかった。
そして、ナナではない女の子が私を抱き上げた瞬間、私は悟ってしまったの。
私はナナに、捨てられてしまったんだ、と。
認めたくなかった。嘘だと思いたかった。
まさか、あんなに私を必要としていたナナが。
泣き叫びたかったけどできなかった。ニヤニヤ笑っている己の顔がこんなに恨めしく思えたことはない。
私の中のナナの笑顔は、黒い何かに塗り潰されて消えた。
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