23週目

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3月はじめの土曜日。 特急列車のデラックスカー。上品なベージュカラーの広々としたシートに、あたしと新はふたり並んで座っていた。 「明日って、桃さんの誕生日だよね。ニコちゃんいるからお雛祭りの支度もあるのに、あたし達だけ旅行って悪かったかな」 「悪いも何も、新婚旅行なんだから遠慮することもないだろ」 天気は快晴。窓の外には青空。絶好の新婚旅行日和だ。 「本当ならハワイとかオーストラリアとか、いかにもってところに行ってみたかったんだけど」 「え、新ってば意外とベタなの好きだった?」 窓の外を見ながらボソリと呟いた新の肘を、自分の肘でチョンと突く。 「ベタって……。伊勢だってこの前ハワイに新婚旅行に行ってただろ」 「うーん、ハワイならあたしはエリカと2回行ってるし。オーストラリアは学生の時に行ったしなあ」 「……女の子って海外旅行好きだよな。まあ、今回は鳥子の身体のこともあるし、俺も仕事長く休めないから仕方ないっちゃ仕方ないけど。海外旅行は子供が生まれてからまたいつか家族旅行で行けばいいか」 あたしを見ながらそう言って笑う新は、口で言うほど不満気ではなく、穏やかな顔をしている。 結婚式も無事に終わり、やっと少し落ち着いた。 いきなりの別居婚の上、子供ももうすぐ生まれるし、ふたりでゆっくりできる時間もないんだから、安定期の今のうちに行って来なさいと三嶋の両親からも言われての新婚旅行。 とはいえ妊娠中のあたしを心配するお父さんから飛行機と船には乗るな、長時間の車と電車の移動もダメ、なにかあったら大変だから医療施設の整った場所から離れるな、と注文がうるさくて。 結局、三嶋の家から気軽に行ける伊勢志摩への新婚旅行となったのだ。
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