1,3黒木誠

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正直、絶望的だ。 急がなければならないのに、焦れば焦るほどアイデアは僕のもとを離れていく。 美術部の倉庫の前で止まり、鍵を開ける。 埃っぽいにおいが扉の間からもれてくる。 教室を一部屋使った倉庫の中には仕上げ済みのカンバスと彫刻が雑然と並べられていた。 僕は自分の気になる絵を探す。 捜索と言っても過言じゃないだろう。 僕はいつものように、カンバスを見て回る。 朋先輩はもう捜し物が決まっているようで、慣れた手つきで絵を取っていく。 コンクールが近くなると、先輩方は自分のイメージにあった絵や彫刻を部室に持って行く。 じっとその作品を見ることによって「何か」を掴み、カンバスに降ろす。 この高校の美術部の歴史は古く、名もない良作が数多く残されている。 「今日も楠木先輩来ませんでしたね」 静かな教室のなかに、僕の声がよく通る。
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