2,片倉愛子

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「ただいま」 帰宅すると、リビングではお母さんが服を選んでいた。 顔は既に化粧で武装済み。 派手なイヤリングもつけちゃって。 「また出かけるの?」 「あら愛子。冷蔵庫の中に晩ご飯あるから」 歳に似合わない格好で出かけるって、無理しすぎでしょ。 カバンをソファに置いてテレビのリモコンをとる。 適当にチャンネルを変えてバラエティをつける。 大笑いしている、賑やかな画面。 下らないことばっかり話してて。 本当に馬鹿みたい。 でも、楽しいんだろうな。 「お母さん」 「なに?」 意を決して言う。 「模試でDとった」 「Dって、判定?」 「うん」 「そっか、それで落ち込んでたのね」 お母さんは服が決まったようでソファに座っている私に近づいてきた。 「そんなことで落ち込まないの。テストの点数なんかでいちいち落ち込んでたら身が持たないわよ」 「……行ってらっしゃい」 お母さんは玄関の扉を開けた。 「十時までには帰ってくるから」 扉が閉まった。鍵を閉める音がする。 人の話し声がしなくなった家に、テレビの音だけが響く。 私はテーブルに向かい、今日の課題を始める。 そんなことって、お母さん。
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