1,1片倉愛子

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「後輩に舐められても気にしないやつだよ。これくらいどうも思わないって」 秋穂は可笑しそうに笑った。 「ああー、確かに。愛子が怒鳴ってるのを『へえー』って聞いてる楠木の図が頭に浮かんだ」 秋穂の言い方に多少カチンとしながら、それでも心のなかでは肯定していた。 なんて言っても、あれには伝わらないんだろうなー。 座右の銘は多分、暖簾かぬかだ。 「和弘、きちんと将来のこととか考えてるのかな」 「有り得ないでしょ。楠木だよ?」 秋穂の即答に私も頷く。 「だよねー」 あれの将来には何も見えない。何になるのかも、どうやって生きていくのかも。 周りは心配しているのに、本人は全く気にしてなくて、自分のことに対するそのうわの空加減が、また周りを心配にさせて。 実際、よく堂島くんがあれに怒鳴っているのを見る気がする。 いつもは冷静っていうか、どこかクールな彼が和弘を相手にすると声を荒げる。
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