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「……なあッ、サオッ、こ、これは、泳いでるのか!?」
少年は迫り狂う風のせいで掻き消されてしまいそうな声を思いっきり張り上げて、叫ぶようにそう訊いた。
少年は、この澄み渡った青空のど真ん中に振り落とされまいと、少女が背負っているエアボンベを掴んで、後ろからぎゅっと抱きしめるようにしがみついている。
それでも、触れたら壊れてしまうんじゃないか、というほどに華奢な少女の身体になるべく触れてしまわないように、細心の注意を払いながら。
「んーんッ、違うかもッ、緊急事態だから、今は、空を飛んでいるの!」
少女も思わず、ほとんど叫び声のようになりながら答える。
少女は、耳元に感じる少年の息づかいをなんとか気にしないようにしながら、少しだけ首を後ろの方に向ける。少年の姿は見えない。
先ほど、空に飛び出す前、思いっきり切ったおかげで、今はバサバサと乱暴にはためく白髪が鬱陶しくない。少女から、なんとなくすっきりしたような笑みがこぼれる。
そして、少女は視線を元に戻す。マスク越しの視線の先には、不敵に微笑む黒衣の女。
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