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少年の言葉は、過去に縛られ続ける運命、あるいは、存在定義しかない少女の胸にも、そう、確かに響いていた。
“今を生きる”、それは全く難しいことではないはずなのに、少女はそんなことからずっと逃げていた。だから……
「……うん、分かってるよ、スプリングフィールさんを救えるのは、アリカ、キミだけだもん。でも……、」
そして、少女はさらにスピードを上げる。空気が刃のように少女の白い肌に突き刺さる。「うおッ!?」少年の驚いた叫び声が少しだけおかしくて、少女は小さく笑う。
「ねぇ、アリカ、全然大丈夫じゃないんでしょ? 知ってるよ、ワタシは、キミが嘘つきだ、って」
少年は何も答えなかった。それでも良かった。少女は知っていた、少年はとても不器用で、少女には、嘘が嘘だとバレることなんてお構い無しで、それでも、大丈夫だ、と嘘をついてしまうことも。
それが、少年の精一杯の優しさで、そして、強さだということも。
だから、少女の紡ぐ言葉は、まるで独白のようだった。
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