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「櫻~!はやくはやく~!」
「まっ待って!七海!」
はぁ、はぁっと息が苦しくなるくらいまで走る。
前には一番の仲のいい親友が、手を上に挙げて左右に振っていた。
肩にかかるくらいまでの髪の長さがある、私の親友である七海。
私は長い髪をハーフアップにさせて、ピンクのリボンを風に羽ばたかせていた。
田所 櫻(たどころ さくら)。
これが、私の名前。
「ったく……運動もできて、頭の良くって何でもできる櫻が、お寝坊さんだなんてね~」
「七海!私はそんなに完璧な人じゃ……」
「嘘つきっ!」
「なっなによぉ?」
やっと七海に追いついたと思えば、呆れられる。
確かに、お寝坊さんな所は否定はできないけれど……何でも出来るなんて、私はそんな完璧な人間じゃない。
「おっほん!えー、田所櫻さんにお聞きします」
「何?」
「えー、今回の期末テストの学年順位はというと?」
何故か改まる七海に、私は疑いの目を向ける。
何か言い出すとこの話。
……成績の話。
「………位かなぁ?」
「え?よく聞こえないな~?」
「あぁ~もう!一位ですよ!それがどうしたのよ!」
成績の話になると、自慢しているようで言いづらいのが現実。
単に授業でやった所を復習して、確認しているだけなのに、七海は口癖のように私を褒め称えた。
「まぁたまたぁ~!すごいじゃない?さ・く・ら・さ~ん?」
「なっ七海、顔近いよ……?」
「え?単なる心からの恨みを込めて言ってるだけですが、な~に~かぁぁぁ?」
「いえ、別に何もございません七海様!」
「よろしい」
顔を近づけて言うくらいだから、七海の言ってる言葉は本音なんだと思う。
でも、七海だってやれば出来る高校生。
大学進学にむけての受験が控えている私達は、今どのクラスでも真剣な雰囲気が漂っているくらいに。
別に勉強が好きなわけではないんだけどなぁ……
そう思いながらも、遅刻しそうな時間に通学路をゆっくりと歩いている。
いつも通りの日常。
面白いことなんて、何も起こらない平穏な一日が幕を開けた。
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