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ー桂sideー
「いよいよ明日、か……」
撃たれた右肩の傷の痛みは、もう気にしない程度にまでひいている。
この一月、政治について全く耳にしない。
唯一聞いたと言えば、長州を降伏させるために私を使ったこと……ぐらいか。
一人の幕臣が私の所へ来て、
「残念だな、桂。長州はお前を裏切った」
そう言い残して去って行った。
おおかた、私を理由にこの戦を終わらせ、長州一藩を正そうとでもしたのだろう。
しかし、それは幕府の思い通りには行かなかった……ということか。
戦を続けるよう言ったのは、おそらく晋作だろうね。
もちろん、私一人のために今までの努力を無駄にはできない。
この戦のために薩摩とも手を組んだんだ、坂本君達の功績までも無駄にするわけにはいかない。
「ふふ……」
どうしてだろうね。
明日死ぬというのに、怖いも何もない。
悔やみといえば、最後まで護ってあげれなければいけなかった二人を護れなかったことだ。
それ以外は何もない。
藩のためと思って、日本のためだと思って行動してきた今までのことなど、他人事だとさえ思える。
「櫻……」
牢の中から見える月が冷たい光を照らしている。
私はその月を見ながら櫻の笑った姿を浮かべる。
もう、彼女の笑った顔を見ることは出来ないのだろうか。
愛しい、彼女の。
できることなら、彼女を未来へ帰してから死を迎えたかった。
だが、それはできそうにないようだ。
彼女は私の死をどう思うのだろうか。
一人で、誰もいない所で泣き続けているのだろうか。
…………その涙を、私はもう止めてあげることはないのだろうね……
最後の夜は寝ることはできなさそうだ。
私はずっと、月を見ながら日が登るのを待っていた。
死を、待っていた。
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