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ー櫻sideー
いよいよ、当日。
小五郎さんが処刑される文月の二十日。
私達はいつもよりも早く起きて、出かけようとしていた。
「土方さんは?」
「忘れ物があるとか言って、まだ宿の中にいるよ。本当、土方さんって肝心な時にこうなんだから……」
「そんなことないよ」
「……え?」
「私、本当に梢ちゃんや土方さんに感謝しているの。敵なのに……小五郎さんを助けるって言ってくれて……」
「待たせたな」
そして、土方さんがやってくる。
今しか言えない、そんな気がした。
もう二人に会えないような……そんな気がして仕方がなかった。
「二人がいなかったら、私は今ここにいなかった。小五郎さんの死の知らせを聞いて、そのまま私も死んでいたと思う……」
「櫻……」
「櫻ちゃん……」
「だから、二人には本当に感謝していて。まだ助けることができてあないけれど……本当に、本当に……っ」
あれ、おかしい。
まだ終わってないのに、これからだって言うのに……
なんで泣いちゃうだろう……
ダメなのに。
今泣いちゃ、ダメなのに……
理由もわからず涙を流す私に、梢ちゃんは私を抱きしめる。
ぎゅっと少し強い力で、何かを伝えるように。
「櫻ちゃん、あのね……本当は私……っ!!」
「梢」
「…………っ」
「梢……ちゃん?」
梢ちゃんは急に離れる。
土方さんに何かを抑え込まれたように。
急に我に返ったような表情をして、口元を手で押さえていた。
「ご、ごめん。私の方こそ部屋に忘れ物をしちゃったかも……」
「あっ……梢ちゃん!」
さっきのは一体何?
何を言いかけたの?
土方さんを見ると、何事も無かったかのように真っ直ぐな目で前を向いていた。
聞くな、と直接言われたわけじゃない。
でもその姿からして私は何も聞き出せなかった。
「………………」
「………………」
なんだか、二人との間に何か壁があるような気がした。
梢ちゃんが言おうとしたことは、
私が入ってはいけない領域に、踏み出してしまうようなことだったのかもしれない。
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