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--ほら、見えてきた。あそこがワンタメタウンだ。
父が車を運転しながらそう言った。
目の前に広がる町並みは、昨日まで住んでいたようなどこにでもあるような街と違い、変わった形の建物が並んでいる。
カメラや、宝箱の形をした建物を見ると、まるで別世界にいるようだ。
ワンタメタウンというのは、犬と人間との共存を目指して造られた街だと聞いた事がある。
そこは街全体が犬とその飼い主のために造られたような都市で、ペット文化の発信源として近頃話題になっている。
犬好きや犬にとってはまさに夢のような街だ。
そんな街で、これから暮らしていく。
「新しい街でも友達がいっぱいできるといいね」
あたしは隣にいる相棒
--チワワのメロディ(♀)--
に話しかけた。
後部席の両端に座っているあたしと姉の間に、メロディのケージはあった。
姉は、買い替えたばかりの最新機種のスマートフォンの画面をいじって何かをしている。
母は、近所に配る挨拶回りの品物のタオルの数を確認している。
父は、カーナビを見ながら、新居の場所を確認している。
開いた車の窓から入ってくる春風が、あたしの髪を撫で、頬を通り過ぎる。
4月初旬の心地好く、少し暖かい風は、まるで新しい生活への不安と期待を同時に運んで来るようだ。
--これから起こる出来事なんて、その時には知るよしもなかった。
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