memory1

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 栃乙女が目覚めたのは携帯のアラームが鳴ったためであった。  慌てて携帯に出たが、一足遅かった。留守番電話に花梨の声で待ち合わせの場所と時刻だけが語られている。  病院の駐車場に倒れていたのを警備員が運んでくれたらしい。病院の看護婦が帰ろうとする乙女にそう話しくれた。乙女は警備員に挨拶をして、精神心療内科の病院を出る。  大通りでタクシーを拾い、花梨が待つ行きつけのレストランに向かった。  小さなレストランだが、深夜二時まで営業している。客足も上々で、今夜も満員であった。  ウェイトレスが、乙女の姿に目を円くした。乙女が鏡で確認するとソラに殴られた頬が痣になっていた。通りで痛いはずであった。しかも眼鏡レンズに皹が入っている。乙女はウェイトレスに愛想笑いで誤魔化して花梨の居る席に着いた。  花梨は黒のワンピースを着ていた。胸元に乙女が贈ったネックレスを下げている。少し癖のある黒い髪をワックスかなにかで弄っていた。化粧は薄いが目鼻立ちはしっかりしている。乙女には勿体ない人物であった。 「すいません。遅くなりました」  乙女は謝った。 「また、ソラさんに殴られましたわね」  花梨は笑顔でそう言った。
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