memory1

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「博士は今日も居ないみたいですね。ルティさんの追っかけですか?」  住宅街にひっそりと立つ豪邸には、明かりが無い。花梨はその豪邸の家政婦として、主のユーリとユーリの両親が里子に引き取ったネリーという娘と三人暮らしをしている。  ユーリの婚約者であるルティアナは歌手であり全米を飛び回っている。  ユーリはそのイベントに着いて行ってるのだ。 「ネリーもカジノに出かけてしまって居ませんの。スピカ様、お時間はありますの?」  タクシーを下りた花梨が、問う。 「え、はい。時間は朝まで空いてます」 「なら、今夜はお泊りしてほしいですの。お部屋はたくさんありますし、御相談がありますの」 「相談ですか?」 「はい。お食事よりそっちが重要なんですの」  花梨は、豪邸の扉を開けようとした。 「やあ。やっとお戻りかい? 待っていたよ」  その背後、道先からいきなり男の声が上がる。 「出ましたわね。医師免許を取り損ねて商社マンに落ちた詐欺師!」  花梨がすかさず振り向いた。 「医師免許は無くして申請中だよ。その合間に食器洗浄機を売りさばいているんだ。話くらい聞いてくれても良いんじゃないか?」  くたびれたスーツを着た男は、鞄ひとつ持って近寄って来る。 「そういうのは押し売りといいますの。私は要らないと言いましたわ」 「なら、そちらの旦那さんのほうはどうだい?」  商社マンは、さっくりと商売対象を乙女に変えた。
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