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しばらく互いに黙り込んだ様子で静かになった。
梅若はこっそり襖を少し開け中を覗き始める。
二人の距離は心をまんま表したように座布団一枚敷ける程度離れていた。
そう遠い距離ではないが二人は人形のように動かないまま、ただ心無きままに見詰め合っていた。
(もどかし。)
少年は少々苛立ってきていた。
(なぜ、兄さん方みたいに大人達はまどろっこしい付き合いをするのだろう。)
色恋沙汰に興味があるにしても苛つきだけは抑える事が出来なかった。
「菊弥。」
「なんだ。」
三助が口を開いた。菊弥は下を向いたまま小声で返事した。
「もう少し待っていてくれ。あと少しでお前を買えるから」
「私を買う事など出来ないよ。分かっているだろう。私はここから出る事が許されない。」
菊弥がいったい何を言っているのか梅若には理解が出来なかった。
それが菊弥に対しての楼主の寵愛が厚いという事を指しているのが少年には分からなかった。
「分かってはいるが」
今度は三助が黙り込んだ。二人の会話は最近はずっとこの調子だった。
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