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梅若は遊女の子である。
本来ならば親が鬼灯(ホオズキ)を飲んで腹から下ろされている。
だが、楼主が生まれた子を他の店に売るため親に梅若を産ませた。
六歳まで名無しで育てられ、六歳になると陰間茶屋に売り飛ばされた。
そこで躾(シツケ)をする事になった菊弥が梅若と言う名を与えた。
「ウメ、ちょっとおいで。」
「はい、はい、あこに何用ですか。」
髪を下ろしたままの少年は廊下を駆けて菊弥の部屋に顔を出した。
女の格好をした男は少しばかし振り向くが眉を歪ましている。
「こら、ウメはもう十一だろう。あこなど小さい子が使うものだ。自分の事は私と言いな。」
「はぁい。」
「ちゃんと返事なさい。」
菊弥は畳んだままの扇子で床を軽く叩く。
梅若は納得のいかない様子で「はい。」と言い直した。
「ちょっと使いを頼んでも良いかな。」
「もちろんです。」
(どうせ嫌だと言っても行かせるくせに。)
男は微笑んで銭を渡し少年に香を買ってくるよう言い付けた。
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