花一匁(ハナイチモンメ)

2/10
前へ
/10ページ
次へ
梅若は遊女の子である。 本来ならば親が鬼灯(ホオズキ)を飲んで腹から下ろされている。 だが、楼主が生まれた子を他の店に売るため親に梅若を産ませた。 六歳まで名無しで育てられ、六歳になると陰間茶屋に売り飛ばされた。 そこで躾(シツケ)をする事になった菊弥が梅若と言う名を与えた。 「ウメ、ちょっとおいで。」 「はい、はい、あこに何用ですか。」 髪を下ろしたままの少年は廊下を駆けて菊弥の部屋に顔を出した。 女の格好をした男は少しばかし振り向くが眉を歪ましている。 「こら、ウメはもう十一だろう。あこなど小さい子が使うものだ。自分の事は私と言いな。」 「はぁい。」 「ちゃんと返事なさい。」 菊弥は畳んだままの扇子で床を軽く叩く。 梅若は納得のいかない様子で「はい。」と言い直した。 「ちょっと使いを頼んでも良いかな。」 「もちろんです。」 (どうせ嫌だと言っても行かせるくせに。) 男は微笑んで銭を渡し少年に香を買ってくるよう言い付けた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加