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梅若はいつも菊弥が使っている香を買うとふらふらと街を歩きだす。
なかなか花街から出る事がないものだから楽しくて仕方がない。
(菊兄さんみたいに仕事を始めるとこんな風に街を歩けなくなるのだろうか。)
最近は街に出ると考えずにいれなくなっていた。
「梅若か。」
後ろから声がし振り返ると高そうな着物を着た同い年くらいの少年が軽く手を上げた。
「秋正じゃないか。」
「今日も使いか。」
「そうだよ。菊兄さん、人使いが荒いから。」
「そう言うなって。菊弥さんが街に出るわけにはいけないだろ。」
秋正がけらけら笑うのを梅若は悲し気に目を伏せて見つめた。
笑っていた少年も髪を下ろしている友の様子に気がつくと笑うのを止め目を逸らした。
「ごめんな。」
独り言のように秋正が言うと梅若は静かに頷いた。
「なぁ、梅若もいつか街に来れなくなるのか。」
「さぁ。わたしには分からないよ。」
「そうか。」
秋正が返したその言葉が何故だか梅若には切なく響いた。
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