花一匁(ハナイチモンメ)

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秋正は梅若の表情に気が付き肩に触れようと手を僅か(ワズカ)に上げたが、乙女のような格好が目に入るとすぐに止め再び目を逸らした。 「もし梅若が街に来れなくなったら俺が迎えに行くからな。」 友の言葉を聞いた梅若は目の輝きを強めたがすぐに苦笑し 「その時はなるべく早く来いよな。」 と笑った。 寺の鐘が鳴ると二人は慌ててそれぞれの家路についた。 店に着き、菊弥の部屋に顔を出せば何やら着替え始めていた。 「菊兄さん、只今戻りました。」 「帰ってきたか。まさか人拐いにでもあったのでは無いかと心配していた所だよ」 艶やかな着物をまだ帯も締めずに中途半端に着た男は髪を解かしながら言うと 「さぁ、香はそこらに置いて髪を結うのを手伝っておくれよ」 「はい」 楽し気に鼻唄を唄う菊弥の様子を見て(今日はあの人が来るのか)と確信した。 「今日は帰りが遅かったけれど、どうしたんだい。」 「今日は秋正に会いました。」 「あぁ、この前言っていた子かい。」 男は自然と髪を解かしていた手を止めて少年を優しく見つめた。
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