10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
この前というのは、十日くらい前に梅若が街に行った時の話しだ。
その日も使いを済まして街を散策していたのだが、路地を通りかかった時に梅若は人拐いに捕まってしまった。
非力な梅若は途方にくれていたが、ちょうど通りかかった秋正が大声を出して助けてくれたのだ。
それを菊弥に伝えると秋正を良く思ったらしく気に入っているようだった。
「確かお侍の子だろう。いつか店に来るかもしれないな。」
「はい。彼はいつかわたしを迎えに行くと言ってくれました。」
男は一瞬だけ唇を噛み締めるとまた髪を解かし始め
「本当に、迎えに来てくれると良いな。」
自分の事と重ねるように呟いた。
少年は男の髪を結い始めながら、菊弥の発した言葉の絶望に似た響きを不思議に思って聞いていた。
「今日の飾りはこれを頼んで良いかい。」
菊弥は普段髪に飾っている物よりきらびやかな物を出した。
髪型は島原の遊女を倣って(ナラッテ)横兵庫にしている。(横兵庫とは後ろから見ると蝶の羽のように見える髪型。)
飾りを付けるとほとんど髪が見えなくなる。菊弥が言うには流行りらしい。
最初のコメントを投稿しよう!