翡翠の君

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「それではこの間の小テストを 返します。志摩くん」 「ほぉい」 紆余曲折を経てようやく授業が再開された。 雪男が一人一人名前を呼んでいく。 志摩、出雲ときて次はしえみの番だ。 「私 自信あるよ!得意分野だもん」 しえみが自信満々といった感じに手を握り 燐とララに興奮気味に話す。 そしてついに名前が呼ばれた。 …だがしかし。 「植物にオリジナルの名前を つけるのはいいですが テストでは正確な名前を覚えて 書いてくださいね」 「!!!」 それがなければ多分満点だったかも、と にこやかにつけ加えられ渡されたテストの 点数は41点。 かなり自信があっただけに、落胆は大きい。 「ぶっはは!?得意分野なのにな!」 「燐!!」 ショックで言葉も出ないしえみに たまらず燐が吹き出し、 それを咎めるようにララが声を上げた。 「奥村くん」 そんな時、雪男の静かな声が響く。 テストを取りに行った燐へ放たれた 第一声、それは。 「胃が痛いよ………」 「…… スンマセン」 気になる燐の点数は馬鹿にしたしえみを はるかに下回り、なんと2点。 雪男の眉間には深いシワが寄せられている。 ここまでくるとある意味天才、と 言えようか。 「しえみを馬鹿にした天罰です」 「う゛ わ、悪かったよ…」 「もう」 ララの言うことはもっともなので、 燐は縮こまるしかない。 と、ララの名前が呼ばれた。 「天音さん」 「はい」 「あれ お前今日来たのにいつやったの?」 「ここに来る前に少し時間があったので」 ララは目を丸くする燐にいたずらっぽく 微笑んで、雪男のもとに向かう。 「さすがだね。よくできました」 「ありがとうございます」 結果は…文句なしの100点。 雪男からテストを受け取って戻ろうと 踵をかえし、歩きだしたララは、ふいに 立ち止まると雪男を振り返り近寄って、 他の者には聞こえないようにそっと囁いた。 「あとで雪と燐にお話があります。 雪も…私に聞きたいことが あるのでしょう?」 「…うん じゃあそれとなく兄さんも 連れていくよ」 「ええ お願いしますね」  
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