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――正十字学園町。
とある日の夕方、人通りも少なくなった道に
1人の少女の姿があった。
「ここはどこなのでしょう…。」
頬に手をあて、困り果てたといった感じで
小首を傾げるその少女は長い黒髪に上品な
黒い服を纏っている。
大きな瞳は澄んだ青色で、まるで
人形のように愛らしかった。
どうやら道に迷ったらしい少女が勘を頼りに
一歩踏み出したその時。
少女の背中に声がかかる。
{おい、ララ!!}
「え?」
と、同時に影が少女――ララの肩に
音もなく飛び乗った。
その影の正体を見とめるとララは途端に
瞳を輝かせる。
「ルゥ!!」
{ルゥ、じゃない!!なんだってお前は
そんなに迷うんだっ!}
彼女にルゥと呼ばれた憤慨する声の主は、
使い魔である。
猫のような体躯に白い毛並み。丸い目は
紅で、それと同色の、石のような
ものが額に埋め込まれている。
地をつかんで蹴る四肢の先に具わった
鋭利な爪は、3本。
普通の人間にその姿を見ることは叶わないし
もちろん声も聞こえない。
「なんでって…なんでかな?」
{お前なぁ…。直線に進んでて逆に
どうやって迷えるんだ}
「いや こっちに行ったらおもしろそう
だなーって、つい」
{ヘンな基準で道変えるな}
呆れたようにルゥが前足て頬をつつく。
この2人、もとい1人と1匹はある場所を目指して歩いていたのだが
途中でララが道をはずれ、さらに案内役の
使い魔ともはぐれてしまい、今やっと
発見されたのだった。
{大体、昔この辺に住んでたんだろ}
「うん でもすごく小さい時だし?
あの頃は毎日この道通ってたからなぁ。
それに日本に帰ってくること自体
久しぶりだもん」
{じゃあなんで久しぶりなお前より初めて
来た俺の方がわかるんだよ}
「もー さっきから刺のある言い方だなぁ。
ごめんってば。
まかせてよっ 今度こそまっすぐたどり
着いてみせるから!!」
{当たり前だろ 直線なんだから。
…あと、やる気になってるとこ水を差す
ようで悪いが……目の前だ}
「はい?」
使い魔の言葉に顔を上げると、2人の
目的地――南十字男子修道院が
そこにあった。
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