翡翠の君

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あらゆる学業施設が集約されて いる正十字学園町の中心、 名門私立正十字学園。 だがそれは言うなれば表。 この学園には裏の顔がある。 それは祓魔師(エクソシスト)を養成する 世界有数の祓魔塾としての顔だ。 ″鍵″でのみ行き来が許されるそこは 隔絶された学舎。 それぞれ様々な理由で祓魔師を目指し 悪魔祓い(エクソシズム)を学ぶ 訓練生(ペイジ)は9人。 今日もまた授業が行われていた。 「…村くん」 ぐ―――… 「奥村くん」 教師の呼びかけに全く反応を見せず 白目を剥いて熟睡しているこの少年、 名を奥村燐。 無造作な黒髪に八重歯が印象的である。 これは一部の者しか知らない極秘事項だが、 燐は魔神(サタン)の落胤であり、先日の 覚醒を経て悪魔の身体となった。 そしてその際に失った養父・藤本獅郎の仇 魔神を倒すために祓魔師になることを 決意したのである。 そんな決意はどこへやら、だらしなく よだれを垂らしながら寝ていた燐は 講師の再三の呼びかけでやっと目を 覚ました。 …ただし、寝言とともに。 「スキヤキ!?」 「………  起きなさい」 「…ス スンマセン」 クスクスと他の訓練生に笑われ、いたたまれ なくなった燐が少し俯きながら謝罪した その時。 「なんやアイツ… 何しに来てん   いね ――帰れや!」 突然聞こえてきた声に振り返れば 後方の席に座る少年がすごい迫力と 形相でこちらを睨みつけていた。 彼の名は勝呂竜二。黒髪に金髪のモヒカンが 印象的だ。見かけに反し、真面目で努力家。 余談だが、目つきが悪いのを気にして いるとかいないとか。 「(昔だったらここで睨み返して 後でケンカするパターン でも俺はもうあーゆーヤカラには 関わらねーぜ?)」 祓魔師になるって決めたからな…! 初日にガンをもらっていたことを思い出し また勝呂の気合いの入った髪形に感心しつつ 大人(?)な燐はやり返すのをやめた。 …やめたのだが。 「フフフ……」 「奥村くーん! しっかり!」 自分がかっこいい祓魔師になるのを 想像しながら寝始めてしまう。 「………  …チッ」 これにより勝呂の怒りはふつふつと 確実に沸き上がってゆく――――…  
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