-序章-

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『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』 そのアナウンスが耳の中に響く。いわゆる完全なる音信不通だ。彼女の視界に映るのは皮肉にも雲一つない満天の星空だった。 (どうして…どうして…。貴方が私のライフラインだったのに。どうして!?) 気がつけば大粒の涙が頬を濡らしていた。いままで誰彼にも疎まれて生きてきた彼女。誰も信じず、誰も愛さなかった彼女が唯一愛していた瑠川はじめが無断で電話番号を変えたのだ。これは事実上の絶縁宣言と言っても過言ではない。 冬独特の寂寥感から、生命の芽吹く春へと近づいてきた今日この頃。季節に逆行して遥の心はいきなりどん底まで堕ちてしまったのだ。崩れ落ちるように彼女はベッドの上に座り込む。もう誰にも必要とされていないと感じた遥は、希望を抱き強く輝く瞳から、生きることさえ諦めたように虚ろな瞳に変わり果ててしまった。 (この世界に少しでも、希望を抱いた私が馬鹿だった) ベッドの中にいた彼女だが、何を思ったのか青髪のウイッグにネグリジェ姿に着替えて、家族にも何も言わずにそのままこっそりと家を飛び出した。 (もう二度とこの家に帰ることもない。あの人達も私がいない方がせいせいする) まだ明け方には早すぎる時間で辺りも暗い。ネオンの明かりを頼りにして、宛てもなくさ迷う。それはまるで生気のない亡霊のようで、そんな彼女の様子に行き交う人々を戦慄させた。月の光がより彼女を不気味に照らすのだ。その間もとめどなく流れる涙を拭おうともせずひたすら歩くだけの亡霊。彼女はいままでの凄惨な過去を思い返していた。度重なる兄からの圧力と暴力。それを肉親に報告すれば、自業自得だと言われ、逆に彼女が責められた。また突然の親戚の同居で、唯一の一人でいられる筈の一人部屋を貸したせいで、パーソナルスペースをなくした。そして彼女が行うすべてを否定され、自分が悪いという完全なる人格否定とそう思わせるマインドコントロール。少なくとも、彼女にとって家は安らげる居場所ではなかった。 (あの日も、死にたかった)
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