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彼と初めて同じクラスになった15の頃、家族や親戚の不貞行為よって精神的な傷を負い、その副作用で奇怪な行動に出ていた。夜中出歩いたり、徹夜を理由もなく徘徊を何度も繰り返したり、自分の腕をカッターで傷つけたり、しまいには自分の頬を傷つけたりもした。あれは確かに消えたい衝動からくるものだった。しかしある夜、本当に死ぬだろうと朧げになる意識の中、ガレージの下で眠りに就いた翌朝、彼がいたのだ。後日彼から聞いた話によれば、あの日自分の助けがなければ本当に死んでいたらしい。そういう意味でも、彼は遥にとってかけがえのない存在だった。
(どうして、必要でもないのに私を生かしたの?捨てるくらいなら、どうして私を殺してくれなかったの?こんな惨めな思いするくらいなら殺して欲しかった)
彼女は正常な思考ができなかった。彼と別れてから彼女の視界は一気に白黒化したように、感情さえも削ぎ落とされてしまった。それに加えて環境の変化にもついてゆけず、引きこもりとリストカットを繰り返すようになり、入学した大学も1年足らずで退学した。それでもまだ死にたいという極地まで至らなかったのは、彼が生きていることを知る唯一の手段が、電話だった。しかし話す勇気もなく、ただ電話を掛けて彼が電話に出る前に切る。端から見れば、無言電話で下手すればストーカー行為と見なされ立派な犯罪になる。しかし彼女にはその判断ができないほど精神が無常に、そして残酷に続く日常によって侵されていた。だからこそ今回の件は、彼女をいわれようのない不安から決定的な絶望へと一気に導いてしまったのだ。
気がつけばとある建物の屋上にいた。そこから見下ろすと、周りの建物のネオン、車、帰路に見える人々が小さく見えた。ここで飛び降りたら、すぐに楽になれる。もう自分というしがらみから解放されるのだ。これ以上生きる理由なんてないのだ。そして、自分には生きている価値はない。そう思った彼女は手摺りを掴み、跨ぐ。死の恐怖で震える筈の手はもはや天を仰いでいた。
「さようなら、はじめ。私は一人で逝きます。どうか、私の分までお幸せに」
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