プロローグⅡ

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天瀬修一は、このたび、家を買った。 家―――そう、立派な家である。 田舎とはいえ、そして田畑の中の一軒屋とはいえ、それでも立派な家を買ったのである。 駅から足を伸ばし、ペットボトル一本を軽く空にする頃には、その家の前に到着していた。 「―――」 懐かしいな、と思う。 純和風の、張り出した屋根も立派な一軒家。 何度も訪れたことのあるこの家。 そう、修一はこの家に何度か足を運んだコトがあった。 民宿『風乃屋』。 ―――ココはかつて、民宿だったのである。 何度か修一はココを訪れ、そして泊まったコトがあった。 頭の中に過ぎる、懐かしいセピア色の思い出。 しかし、思い出だけではお腹は一杯にならないし、ましてやこの暑さが和らぐ訳でもない。 ただ、記憶の中の風景と、目の前の風景は完全に一致していて。 あの夏の蝉の声と。 空の青さと入道雲と。 低く迫り出した山々の緑が、どれもこれも懐かしかった。 汗をぬぐって、門をくぐる。 一礼した。 「お世話になります」 それは、これからこの家で暮らすにあたって―――この家に向かい合っての、正直な気持ち。 そう告げて、ポケットから受け取った鍵を取り出して。 そして、鍵を開けた。
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