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「次は風羽(かぜはね)、風羽(かぜはね)です…」
眠そうなアナウンス。
ゆっくりと減速していく列車。
一両編成の気動車の外に出てみれば、そこには真夏の日差しと空気が待っていた。
「…くそあちぃ」
愚痴ってみても何にもならないが、そう愚痴るしかない。
背後で、ディーゼルカーの扉が閉まる。冷気だけを満載した、がらんどうの列車が遠ざかっていく。
後に残されたのは、待合室だけの小さな駅と、そこに佇む一人の青年と。
そして、真夏の日差しと、セミのやかましい合唱だけであった。
空を振り仰ぐ。
青い空。入道雲だけが、出来損ないのアイスクリームのように白を広げていた。
行くか。
修一は歩き出す。
集落までは徒歩二十分。
それでも、俺はここに帰って来た―――
あの日の約束を果たすために―――
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