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「ごめん。用事思い出した。帰る。」
足早にカフェを出ました。
地下の店から外に出ると、雲一つなく青が広がっている空に堂々と照らしている太陽が目を刺激しました。
急な眩しさに思わず手で目をかばいました。
「はぁ~。」
張っていた肩の力が抜けていきます。
用事なんてないのに、嘘をついてしまいました。
知られたら、嘘をついたねとあの2人に怒られるでしょう。
急に時間があいてしまい、これからどうしようか立ち尽くしたまま、左右をキョロキョロ見渡しました。
左は自宅方向。右はいきつけのお店への方向。
腕時計を見ると針はまだ3時になったばかりでした。
帰るにはまだ早すぎる時間です。
考える必要などありません。
自然と右へ足が動き始めます。
こんな時間から優雅に一杯・・・。
これが私らしい休日の過ごし方なのかも知れません。
20分ほど歩くと、いつものいきつけの店の看板が見えてきました。
看板を見上げるだけでほっとしました。
木の素材で出来ている重い扉を押し、店の中へ入りました。
時間帯的にまだ早い事もあってか客は一人もいず、店内は落ち着いたBGMが流れているだけでした。
「おっ、いらっしゃい。」
カウンター席の奥からマスターが迎えてくれました。
毎日かかさず綺麗に手入れをしていそうな顎ひげ。年齢が伺える少し白髪交じりの髪の毛。何より、すらっとした背格好がダンディーさを引き立たせているマスターです。
「こんな時間に来るなんて珍しいね。」
「ちょっと・・・。色々あって・・・。あ、ビールください。」
少し言葉を濁らしながら言ってカウンター席の椅子に座りました。
椅子に座るなり、マスターはすぐにグラスビールとピーナッツを私の前におきました。
「そういえば、この前テレビに出てたね、あの人。」
名前を言わなくても誰のことを言っているのか分かりました。
「ええ・・・。そりゃ出ますよ。」
グラスビールを見つめたままマスターの目を見ることなく答えました。
「すごく人気だね。」
マスターはグラスに半分入っている紅茶を一口飲んでから言いました。
「でしょうね。」
そして私はふてくされた表情に変え、ビールを一気に半分まで飲みました。
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