はじまり

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『あいつ本当に経験者か?』 「………っ」 無言の悲鳴を上げ、そして思い切り壁を殴った。手に痛みを感じない。 やめろ。言わないでくれよ。 この苦しさを分かれとは言わないから、そんなことを言わないでくれよ。 一生懸命にやってきたものを否定されるのは辛い。 確かに俺は、ずっと剣道をやってきたんだよ。 あと1年間。 「あと1年間か………………」 いまさら前に医者に言われた言葉が、頭の中を駆け巡った。 『秋羅君の右手はもうほとんど力が入らないはずです』 『まだ左手の方がマシですが、残念ながら、これから次第で右手と同じように………』 『リハビリの必要があります。完全に回復するまで手に負担をかけないで下さい。取り返しのつかないことになります』 1年間かかるんだ完全に治るまで。 1年間堪えなくちゃなんないんだ俺は。 この悔しさを……… 「畜生………」 見上げた空は、悲しいぐらいに青かった。
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