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運命とは残酷且つ皮肉なもので。
私には妹がいる。
厳密に言えば腹違いの妹が。
どうやら私は愛人の子らしい。
私の名前は蔵持千景。
妹の名前は蔵持千晶。
生まれた場所と母体こそ違うが、私達は生まれた時からずっと一緒だった。
実母は私を産み落としてすぐ、まるで役目を終えたかのように静かに息を引き取ったと、いつの日だったか育ての母にして千晶の実母・雪乃さんから聞いた。
実母の名前は呉羽。
とても美しい女性だったという。
私がまだ物心がついたばかりの幼い頃。
善も悪もまだ分からなかった私が、純粋に疑問に思った事を訊ねるのは当たり前で。
『ねぇ、母さん。
どうしてチカのお目目は母さんや千晶みたいに真っ黒なお目目じゃないの?』
鏡を見て、ふと思った事をそのまま雪乃さんに訊ねてみた。
私の髪はまるで漆のような黒。
雪乃さんや千晶と同じ。
だけど、目だけは彼女達とも、日本人のソレとも明らかに違っていた。
綺麗な翠。
翡翠の色。
透き通った、まるで海のような色。
『チカ、母さんや千晶と同じじゃないの?』
酷く悲しかったのを、朧気だけれど覚えている。
生まれた時から雪乃さんがいて。
千晶がいて。
父はいなかったけれど、それが当たり前で。
“家族”だと、信じて疑わなかったから。
泣き出した私に、雪乃さんは儚げに、困ったように笑う。
いつもの笑顔。
いつもの“母さん”だ。
『ねぇ、千景』
『なぁに』
『母さんね、嬉しいのよ』
『嬉しい……? どうして嬉しいの?』
『ふふ。だって、』
『私ね、千景のお目目、宝石みたいにキラキラしてて、綺麗で、大好きなんだもの』
――蛍が飛び交う、初夏。
雪乃さんがこの世を去る、僅か一週間前の出来事だった。
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