1人が本棚に入れています
本棚に追加
徐々に砂利を踏みしめる音が近づいてくる。
それも1人ではない。
2人…いや。 3人にも4人にもとにかく複数居るように聞こえる。
「なんで居ないんだよ!!」
クソッ! と、扉の隅を蹴飛ばし振り返ると月明かりに照らされ姿が見えた6,7人の村人の姿がゆっくりとこちらに近づいていた。
それぞれ、手に何か光るものを持っているがココからでは判別がつかない。
「こうなりゃ森に行くしか…」
慌てて森のほうへ走り出そうとしたとき不意に腕をつかまれた。
「こんばんわ。 このような夜更けに何か御用ですか?」
「…」
投げかけられた声のほうへ恐る恐る振り返ると俺よりはるかに背が高く、柔道家のような体つきをした警察官がこちらを見下ろしていた。
「あ、いあ、追い駆けられて」
その警察官は明らかにおかしい。
おかしいと判っていながらも助けを求めてしまう。
おそらく警察官を見て安心してしまったのだろう。
だが、警察官は表情を変えることなく
「おや。 誰に追い駆けられているのですか?」
と、俺の来た方向を指差すとそこには先ほどまで居た村人の姿は無く月明かりに照らされた砂利道だけがあった。
「でも! 本当に…」
何とか信じてもらいたくて、助けてもらいたくて身振りはぶりで説明をするも警察官は表情を同じままにして帰ることを薦めてくる。
「いいから帰りなさい」
最後にはそうきっぱりと告げられ放り出されてしまった。
警察も当てにならない。
震える手で、ジーンズのポケットから「マイルドセブン」の青い箱を取り出し、1本口に咥えてライターで火をつけたい…のだが、振るえが止まらない。
「くそっ! …くそっ!」
ライターは小さな火花をいくつも、何回も散らすのだが一向に火が付かない。
よく見るとガス欠だった。
「こんな時にガス欠とかふざけんなよ!!」
空ッ欠のライターを地面に叩きつける。
緑色のそのライターは乾いた音をたてて砂利の上へと転がる。
「こんなことなら…」
マッチとか予備のライターを携帯しておけばよかった。
と思って、再び来た道へ歩き出すと20代ぐらいの青年がタバコをふかしながらこちらへ近寄ってきた。
「おや? もしかして火ですかな?」
「え?」
先ほどの俺の行動を見ていたのだろうか。
「火でしたらどうぞ?」
と、風上の方向を片方の手で覆いながらライターに火を灯して笑顔を振りまいてくる。
最初のコメントを投稿しよう!