角度

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どっからどう見ても、見覚えが無い。 寧ろ頭から角生やしたうえ女子トイレに入り込むような知り合いなどいては困る。 この男はさもこれが当然といったような態度だ。 「……うん。やっぱり知らない人……って!扉!扉締めて下さい!変態!!」 ふと自分がここに来た理由を思い出し、自らの格好に困惑する。 あろうことか真琴は男性を前に下着を下ろしているのだ。 当の男ときたら、全く微動だにしない。 「何してるんです早く締めて下さいよ!!」 「私……!」 「はい?」 「私感激いたしました!」 「何言ってるんですか!?」 未だ扉を閉めない男性はその場にしゃがみ込み、肩を震わせた。 端から見れば只の奇行ではあるが、驚きのあまり真琴は硬直してしまう。 「あぁ、私この日を待ち望んでおりました。貴女様にお会い出来ただけでなく、遂に契約が破棄されるとは……!私夢にも思いませんでした!」 「け……契約?」 (何だこの人変態だけじゃなく、さらに危ない人だったの!?) 完全に関わってはいけない人種だ。 とにかくここから離れようと模索するが、出入り口でしゃがみ込まれているため出られない。 小窓でもないかと見渡している内に、男はゆっくりと立ち上がった。 「さぁ、契約は破棄されました!今こそ呪解の時!」 突如男の左手が蒼い炎に包まれ、激しく燃え上がる。 その様に圧巻され、真琴はただ便座に座って眺める他無かった。 「私、この日を待ち焦がれておりました!何度自らの手で貴女様を殺めようとしたか……。しかし苦難の日々は終わりです!契約書をここへ!」 男が声を張ると、炎が弾け散る。 左手に握られているのは、古びた紙切れだった。 「マコト様」 「は、はい!!」 突然名前を呼ばれ、上擦った声で返事を返す。 男の目は歓喜に染まっていた。 左手に握られた紙切れを嬉々として真琴に見せつける。 ウネウネとよく分からない文体と、最後の行には拙い平仮名で『セヤ マコト』と描かれている。 「マコト様はこれを覚えておいでですか!?」 「い、いえ……。全く」 やたらハイテンションの男について行けず、防寒着で何とか下半身を隠してはいるものの耐え切れぬ羞恥心で完全に困惑してしまう。 男は得意気に咳払いをして、胸を張った。 「これは、悪魔の契約書でございます!」
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